スラムに暮らす子どもたちのための「図書館活動」

図書館事業

バンコク・クロントイ地区

子どもたちが心から楽しめる活動を

タイには1,500ヶ所とも言われる「スラム」があります。その殆どが大都市バンコクに集中しており、スラムに暮らす人々は劣悪な環境での生活を余儀なくされています。私たちはバンコク・クロントイ地区にある、最大のスラム、通称「クロントイ・スラム」で子ども達のための教育支援活動を行っています。この支援事業「図書館活動」は、人形劇や絵本の読み聞かせ、楽しいゲームや歌など、子ども達が心から楽しめて、人格形成や社会性を養う上で、とてもためになる活動を行なっています。

徐々に広がる「お話キャラバン」

良質の絵本やおはなしの楽しさに触れることは、子どもの情操的、知的発達、そして自発的な学習姿勢を身につけるのために非常に有効です。その本に馴染んでもらうために、この活動ではまず楽しい人形劇や読み聞かせを行います。楽しさにつられて集まった子ども達は、聞かせてもらったお話しを求めて本の世界に足を踏み入れるのです。ワゴンタイプの車を改造した移動図書館車で本の貸し出しを行います。この活動は「お話しキャラバン」と呼ばれて親しまれています。現在この活動はスラムに限らず、厳しい環境にある、貧しい農村部や難民キャンプに広がっています。活動は年間100回以上実施され、数万人の子ども達が利用します。

子どもたちには楽しみながら 先生には実践練習

さらにスラム地区では、青少年に対する麻薬撲滅運動の一環として、麻薬や覚せい剤の正しい知識、恐ろしさについて、人形劇やゲームを作成し、子どもたちが楽しみながら学び、理解できるよう工夫しています。また、保育園では、研修を受けた先生に、おはなし会に参加してもらい、実践練習を行っています。
2005年には、政府の教育機関、子どもの教育関係に携わるNGO団体で構成される教育ネットワークから、スラムでの図書推進運動が評価され、「生き生きした図書館」賞を受賞しました。(この事業はSVAシャンティ国際ボランティア会との合同事業です)

書物に触れ成長していく子どもたち

タイは農業国から近代的工業先進国へと、目覚ましい高度成長を遂げてきました。しかし、その急激な成長のひずみは、環境破壊や貧富の差など様々な社会問題となって現れてきています。農村は疲弊し、都市部では、その農村から流出した農民達がゴミ捨て場や沼地などに住む場所を求め「スラム」を形成しました。スラムの住民達は市民権も得られず、不衛生で犯罪が多発し、教育、雇用といった全ての面で劣悪な環境で生きて行かざるをえませんでした。
子ども達は学校に行くこともできず、字も読めず、人としての行き方も学ぶことができず、ただただ、日々生きていくことに奔走していました。そんな子ども達が人形劇の実演や読み聞かせに初めて触れた時の感動は計り知れません。
子ども達はこの活動を通して、喜び、悲しみ、怒り、恐怖、驚きなど様々な感情を体験し、さらには本を読むことを憶えていきます。そして様々な書物に触れ、様々な知識を身につけ、想像力を伸ばし、現実の生活で起こってくる様々な問題をうまく解決できるようになっていくのです。
近年スラムの環境は改善され、子ども達の識字率、就学率も上がってきています。しかしその反面、山間部や国境沿いでは、難民や移民労働者問題、民族差別など新たな問題も発生してきています。